マターレクチャー各論② - Politics

2つ目の記事はPoliticsです!

 

マターレクチャー各論① - Education - debatepanda’s blog

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前回の記事と同様、分かりやすさのために若干の正確性は捨てているので、悪しからず。

 

以下、モーションの例を挙げておきます。

THBT SNS does more good than harm to democracy (Elizabeth Cup 2023 R2)

THBT national legislatures should apportion electoral representation by age group, rather than geographical area (Cambridge IV 2021 R4)

In an "anonymous candidate" system, voters cast their votes for various policies, and candidates are matched to them based on the preferences presented. In this debate, it is assumed that voters can be matched to the candidate that best reflects their policy preferences. Under this system, voters do not know which specific candidate/parties they are voting for. THP an "anonymous candidate system" of voting (Umeko Cup 2023 R4)

Advanced Analytics is the autonomous or semi-autonomous examination of data or content. It involves using sophisticated techniques such as machine learning algorithms, deep learning, predictive modelling, or other tools to discover deeper insights, make predictions, or generate recommendations. Advanced Analytics can be used for political microtargeting, which involves identifying the detailed profile of individual voters and voter groups, testing the most persuasive messages, and tailoring campaign strategy to target different voter profiles. This House Would ban the use of advanced analytics in political campaigns (WUDC 2022 QF)

The Liberal Democratic Party (LDP) has dominated the Japanese political landscape since its inception in 1955. At the moment, the LDP, with massive funding, has no real opposition. It alone currently has 276 seats in the House of Representatives of 465 seats and forms a coalition with Komei Party which has 29 seats. Its political ideology is often seen as more conservative than the people: it opposes legalising gay marriage and immigration, it emphasises on traditional family values and nationalism, and it advocates strongly for strengthening Japan’s relationship with the US and further militarisation of Japan. THBT the Japanese government should break up the LDP (Tokyo IV 2023 GF)

THW ban political parties and require all candidates for national public office to seek election as independents (JPDU Spring Tournament 2023 GF)

THP a world in which media depicts democratic politics as cynical and pessimistic to an idealistic and optimistic (JPDU Spring Tournament 2023 GF)

 

最近ではPoliticsのモーションを見ることは格段に減りました。しかし、この概論の内容は他の分野でも使える内容なので、あえて2番目に持ってきました。

以下、3個に分けて書いていきます。

1. 民主主義と他の政治体制の比較

2. より良い民主主義のためにどうすれば良い?

3. 民主主義内のアクターの行動原理

 

1. 民主主義と他の政治体制の比較

一般に民主主義は素晴らしい!と言われますが、なぜなのでしょうか?

ここでよく使われる重要な概念として、State Power Principleというものがあります。

State Power Principleの考え方はざっくり書くとこんな感じ:

State(政府)は抑圧的な存在である+人々は政府の下で生活することに同意していない

→この状況を正当化するには、人々に政府の決定権を譲渡するしかない=民主主義体制が必要

一応英語にしておきますね。

The state is coercive and it deprives people of their agency by taking away money through taxation, enforcing laws, throwing people into prison when they don’t comply, and monopolising violence in the form of police and military.

People do not consent to live under the tyranny of the state.

Therefore, the only way to justify the existence of the state is by reciprocally giving people the power to decide what the state does to them. 

 

State Power Principle以外に、「民主主義の方がより良い政策をもたらすから民主主義の方が良い」という考え方があります。本当なのでしょうか?

Technocracy (技術者主義/官僚主義)と権威主義国家と比べてみましょう。

よくモーションで出るのは、開発独裁(developmental autocracy)についてです。開発独裁とは、国民の政治的参加を制限して政治的安定をもたらすことでより経済発展を進めようとする政治体制のことです。昔の台湾、韓国やシンガポールが良い例です。

政治学でどう言われているかは全く知らないし興味もないですが、ディベートでよく言われることとして以下挙げられます。

・民主主義では政策のゴールが短期的なものになりがち

ディベートで2回に1回は出てくる分析:Politicians have short-term incentive.

なぜshort-term incentiveしかないのかと言うと、政治家の一番のincentiveは次の選挙で勝つことですよね。だからこそ、国民に短期的に利益を与える政策を行います。例えば、90年代のラテンアメリカ。政治家のshort-term incentiveによりインフラ投資に莫大な予算を費やしたり、お金を国民に事実上ばら撒く政策を行ったり、放漫財政をしていました。その結果多くの国では経済破綻。長期的には経済停滞につながりました。

・民主主義では政策の一貫性がなく、非効率

僕がスピーチでよく使う例はアメリカのオバマケアです。オバマ政権時代に低所得者への医療保険充実化を図り、定められた医療保険制度改革です。しかしわずか数年後、トランプ政権により廃止されました。

結局、政権与党がコロコロ変わると、政策も二転三転して、何ら改革がなされないまま改革導入・廃止のコストだけが蓄積していきます。だったら固定政権で一貫性のある政策をした方が効率がいいですよね。

では逆に民主主義の方が政策の結果が良くなる理由を考えてみましょう。

・Corruption (汚職・腐敗)が減る

非民主的な政治体制ではメディアがなかったり野党が欠如しているため、corruptionが起こりやすい傾向にあります。

一応これに対する反論として、Tullock Paradox(ざっくり言えば、corruptionによる政府の資金喪失額は必然的に最小限に収まるという考え)があるので、興味ある人は調べてみてね。

・民主主義国家の方が投資を呼びやすい

非民主主義国家への投資のハードルとして、透明性の欠如が挙げられます。

例えば、中国とアメリカどちらに投資するかと言われたとき、中国の経済の実態がどうなっているかは中国共産党のみ知るところです。不都合な事実を隠蔽しているかもしれませんよね。しかしアメリカなら経済に関するデータが出ていたり、各党の経済政策も公開されているため、今後の予測が容易にできます。だからこそ、S&P500に投資したりアメリカでビジネス展開したりするケースが多いですよね。

 

もちろんこれ以外にも理由をつけようと思えば色々あります。ぜひ考えてみてね。

 

2. より良い民主主義のためにどうすれば良い?

THBT SNS does more good than harm to democracy

このモーションを元に考えてみましょう。まずgood to democracy, harm to democracyとは何でしょうか?

先ほどのState Power Principleを使えば、民主主義の存在意義は人々の意志(preference)を反映するためですよね。じゃあ、good to democracyというのは人々の意志を政治システムに反映しやすくすること、harm to democracyというのは人々の意志を政治システムに反映しずらくすること、と考えるのが自然です。

では、人々のpreferenceを反映とは何でしょうか?これには2つのベクトルがあります。

(1) 何人のpreferenceを反映できるか

(2) preferenceの強度(intensity)を反映できるか

(1)は直感的だと思います。より多くの人の意見が反映されるべきだよね。それだけです。

(2)については、人々は異なる強度のpreferenceを持っているという前提から始めます。例えば、地方に住んでいる建築業を経営する吉田さんは、減税政策を推していて、同性婚や女性へのアファーマティブアクション賛成、育休の充実を主張していたとします。

吉田さんの住む地区では、候補AとBが選挙で議席を争っています。候補Aは、増税を推進し、社会的に保守派で、育休に関する政策の一切ありません。一方、候補Bは、減税政策を推していて、同性婚や女性へのアファーマティブアクション賛成、育休の充実を主張しています。しかし、候補Aは建築業への資金援助の増加を主張しているのに対し、候補Bは建築業への資金援助の停止を主張していたとします。

以下、まとめてみました。

候補A

候補B

吉田さん

増税

減税

減税

同性婚反対

同性婚賛成

同性婚賛成

アファーマティブアクション反対

アファーマティブアクション賛成

アファーマティブアクション賛成

育休政策なし

育休政策あり

育休政策賛成

建築業への資金援助を推進

建築業への資金援助の停止を主張

建築業自営

これを見ると、吉田さんは候補Bに投票するとも思えます。しかし、候補Bが当選してしまうと、自営の建築業には大打撃ですし、経営悪化は免れません。だからこの場合、吉田さんは候補Aに投票することが合理的です。

このように、それぞれのpreferenceには異なる強度があり、その強度の差によって投票行動が決まります。大事な視点なので、注意してみてね!

 

THBT national legislatures should apportion electoral representation by age group, rather than geographical area

例えば、このモーションでは、選挙において候補者が年齢ごとの代表となる制度(全国の31歳の人を代表する政治家、30歳を代表する政治家、という風に年齢ごと)か、地域ごとの代表を投票する制度(ほとんどの国の現状)、どちらの方が正確に民意を反映できるかが一つの争点となります。

Govだったら年齢ごとに価値観が違うから異なる代表の方が良い、Oppだったら地域ごとにpreferenceが異なる(例えば豊田市なら自動車製造業を推進するため円安を推進する候補を選びたいが、都内なら物価上昇を抑えるため円高を推進する候補を選びたい)、とか言えますね。

 

では、次に、民主主義の制度面について見てみます。

民主主義には沢山の欠陥があります。

まずは、gerrymandering。選挙区の分け方を恣意的に行うことで、自分の政党に有利な選挙区を作り出すこと。アメリカのAlabamaでは、人口比で言えば黒人は3割近くなのに、7つある選挙区のうち黒人が大多数を占める選挙区は1つしかない(人口比なら本来2つ黒人が大多数の選挙区があるべき)。このように、共和党にとって有利な選挙区設定になっている。

次に、選挙には莫大なお金がかかります。そこで、大半の候補者は会社からの献金をもらっています。政党も会社から沢山お金をもらっています。だから、国全体の利益に反する場合でも、特定の産業を優遇することがあります。

最後に、選挙では一人一票です。しかし、地区の候補の政策と自身のpreferenceが完全に一致することはまずありません。だから、正確な民意の反映は不可能です。また、人々が自身のpreferenceと反する不合理な選択をする場合もあります。ポピュリズムが典型例です。アメリカの貧困層の多くは、2016年にトランプに投票しました。でもトランプの経済政策の多くは貧困層を苦しめる政策ですよね。SNSの影響とか色々あると思いますが、必ずしも人々は合理的な選択をしないということは覚えておいた方がいいです。この非合理な選択を説明するものとして、政治学ではrational ignorance, rational irrationality, the Nirvana Fallacyと言われる概念もあるので興味のある人は調べてみてね。

 

3. 民主主義内のアクターの行動原理

様々な分野で政治家の行動原理についてディベートになります。例えば、International Relationsのモーションでは、国がどのような行動を採るかが争点になりますが、国の行動は政治家の行動から導かれるものです。だからこそ、多くのチームが、political incentiveの話をします。

まずは、政治家の行動原理から見ましょう。政治家にとって最も重要なのは次の選挙に勝つこと、と一般に言われます。だからこそshort-term incentiveしかなくて、政策が悪くなる、というのは前述した通りです。

ただし、政治家以外にもアクターが存在することを忘れてはいけません。

まず、大半の国では、専門的技量が必要な政策分野では、専門家/官僚に裁量が与えられています。その良い例が金融政策。中央銀行が金融政策を主導していますよね。ただし、途上国では中央銀行の独立性が担保されているとは限りません。数年前インドではモディ大統領が、自身の政策に合わない中央銀行のトップを解雇したことがニュースになりました。政治家による圧力は一定数存在します。

次に政党です。多くの政策を決めるのは政治家ではなく、政党です。党議拘束によって、政党は各議員の表決活動を制限できます。Party disciplineとも言います。政党の方針を決めるのはベテラン議員である場合が多いです。若手議員には権力がないですよね。だから政党は悪い!と言うこともできます。また、逆に政党は長期的視野を持っていると言うこともできます。X党は政権運営をするのに相応しくない!と噂されては今後の選挙活動にも影響しますからね。

最後に、裁判所です。アメリカの裁判所の制度はかなり特殊なので、知っておくべきです。アメリカの最高裁 (Supreme Court)は、大統領により指名されます。もし大統領が共和党なら、保守派寄りの裁判官を指名します。現状、9名のうち6名が保守派になっています。その結果、中絶を合法化するロー対ウェイド事件の判例が覆されてしまいました。

裁判所が政治家・政党の権力濫用を防ぐことができるか、裁判所を通じて政治改革をすることができるか、などテーマになることがあるので、裁判所の存在も頭の片隅に入れておきましょう。

その他に、裁判所一般の問題として、裁判所のバイアスが挙げられます。マイノリティーの裁判官が少ないから、黒人が有罪判決を得ることが多いことが問題になっていたり、大半の裁判官が富裕層であるから貧困層への判決が厳しいものになっていたり、これはCriminal Justiceの問題なので、ここまでにしておきましょう。

 

また、民主主義にもスペクトラムがあることも忘れてはいけません。

とりわけ、途上国のnascent democracy (初期段階の民主主義)において、democratic backsliding (民主主義体制の後退)が起こるかどうか、という話もよく出てきます。紛争直後の新たな民主主義政権が良い例です。この段階では、人々は民主主義体制に信頼をおいていません。容易に独裁国家へと変化する可能性があります。アラブの春の直後の民主主義体制は容易に崩壊しましたよね。

また、途上国では、political dynasty (政治王朝)というものが存在します。同じ家系の政治家が主要な権力を牛耳っていることを指します。例えば、フィリピンのマルコス家やパキスタンのブットー家がpolitical dynastyの例です。さらに、途上国では人種/宗教ごとに政党が存在する場合があります。マレーシアではマレー人の政党、中国系の人の政党のように分かれています。日本でイメージしている民主主義のあり方が世界共通ではないことは意識しておきましょう。

 

ここまでにしておきます!

読んでくれた方はありがとうございます。

最後に復習用音源です。

 

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