マターレクチャー各論④ - Social Movements

こんにちは!Education, Politics, Mediaときて、4つ目のテーマはSocial Movementsです!

 

1つ目の記事:

debatepanda.hatenablog.com

2つ目の記事:

debatepanda.hatenablog.com

3つ目の記事:

debatepanda.hatenablog.com

 

以下、いくつかモーションを挙げておきます。

THBT the feminist movement should oppose policies that incentivise people to get married (ABP 2023 R6)

"Celebratory advocacy" embraces a positive and joyful approach to advocacy, utilizing music, dance, and art to inspire engagement and unity. It emphasizes celebrating achievements, fostering community, and highlighting the movement's successes. On the other hand, "solemn advocacy" takes on a serious and reflective tone, drawing attention to challenges or injustices. It aims to evoke empathy, inspire deep reflection, and mobilize for change through emotional pleas and powerful expressions of dissatisfaction. THBT feminist movements in the developing world should significantly prioritize being celebratory in their advocacy as opposed to being solemn. (UADC 2023 R2)

Coming out of the closet, or simply coming out, refers to LGBTQ people's self-disclosure of their sexual orientation or of their gender identity. THBT the LGBTQ movement should actively portray "coming out" stories in a positive way (Umeko Cup 2023 R3)

TH prefers environmental movements heavily prioritizing a local agenda over a global one (e.g., focusing on local pollution rather than climate change) (WUDC 2021 R3)

This House Believes That LGBTQ+ movements in developing countries should integrate patriotism into their messaging* *including actions such as celebrating LGBTQ+ soldiers, talking openly about being "queer and a patriot", displaying the pride flag with the national symbol, and avoiding actions such as supporting independence movements within the country or publicly criticizing nationalism (WUDC 2022 R3)

THBT no-platforming movements* in universities have done more harm than good *No-platforming movements aim to deny certain individuals the opportunity to express their views publicly (Oxford IV 2021 R5)

 

まず、Social Movementsのモーションにおいて、初心者がしがちなミスから話します。

Social Movementsのモーションでスピーチの大半をマイノリティーがいかに差別されているかに費やす初心者が多いです。しかし、それは戦略的ではありません。対戦相手が「マイノリティーの利益なんて全く重要でない!」と主張する可能性は限りなくゼロに近いからです。相手はおそらく、マイノリティーの利益は自分達の世界で守られる or マイノリティーにはより重要な利益があるのでそちらを優先すべき と主張するでしょう。

 

そのため、Social Movementsのディベートにおいて、争点 (Clash)が以下の2つになることが多いです。

(1) Which is a better strategy to achieve change?

(2) Which objective is more important?

 

(1)は戦略面について。より多くの支持を受けるのはどちらのサイドか。

(2)はゴールについて。どちらのサイドの目指すゴールの方がより重要か。

 

THBT the feminist movement should oppose policies that incentivise people to get married

このモーションで見てみましょう。policies that incentivise people to get marriedっていうのは、お見合いを容易にしたり、育休を充実させたり、結婚した世帯への資金援助を充実させる政策です。

まず(1) - 上記政策をopposeすることが戦略的か?Feminist movementへの支持が増えるか?

Gov:若者の結婚離れの進む中でこれらの政策を反対することで支持が得られる

Opp:こんな真っ当な政策批判したら支持が減るでしょ

次に(2) - 上記政策は女性にとって良いのか?

Opp:結婚する選択肢を尊重しよう

Gov:結婚は女性の自由を制約するものだからこそ結婚しない選択肢を尊重しよう

あとはGov, OppでStrategyの成功しやすさとObjectiveの重要性を比較するだけです。シンプル!

 

ただ、Social Movementsと言っても様々なmovementがあるので、一個ずつ見ていきましょう。

Feminist Movement

僕が初心者だった頃に教わったのは、フェミニズムは第一波、第二波、第三波があってそれぞれでフェミニズムの目指すべき価値観が異なるんだよ〜と習いました。おそらく今も多くの先輩ディベーターがこのように教えているんだと思います。これは、知識として知る分には良いと思いますが、ディベートにおける実用性はゼロだと思います。

The goal of Feminism is 〜 って言われても、「それってあなたの感想ですよね?」としかなりません。なぜそれがFeminismにとって最も重要なゴールなのかの理由づけが必ず必要です。こんな感じ↓

The goal of Feminism is to reduce sexual violence and the worst types of abuse in conservative areas because the victims are the most vulnerable women who need our help.

でもこの理由づけって結局のところ、We save the most vulnerable women. っていうフツーのImpactですよね。

なので意識して欲しいのは、Social Movementsのディベートも他の分野と同じで、誰がどのように救われるのかを明確にしてimpactにしましょう。

 

Intersectionality 

次に扱うのは、Intersectionalityという概念です。

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インターセクショナリティ - 人種、性別、階級、性的指向性自認など複数の個人のアイデンティティが組み合わさることによって起こる様々な差別の現状に目を向け、マイノリティの中でもさらに焦点の当たりづらい差別を受けている当事者を可視化するための概念 (ググりました)

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要は黒人女性やムスリム女性は白人女性と同じく女性としての差別を受けることがあるが、受ける差別の種類・程度は大きく異なるってことです。

このインターセクショナリティは、ただ差別の度合いの差だけではなく、時に女性間で利益が相反するケースもあります。これの実例として2つ挙げてみます。

お金持ち女性 vs 貧困層女性 - セックスワークの犯罪化をめぐって

フェミニストの一部は、歴史的にセックスワークの違法化を推進していきました。これらは女性の性搾取につながり、女性のイメージ向上の妨げとなるからです。一方で、セックスワークが違法化されると、これらの事業により生計を立てていた女性達は仕事を失うか、これらの事業が地下経済に移行することで規制のない中今まで以上に搾取されることになってしまいます。

フランス白人女性 vs ムスリム女性 - 宗教的自由をめぐって

フランスでは政教分離に重点が置かれており(いわゆるライシテ)、歴史的にフェミニズムも公共の場における宗教的シンボルの禁止を主張してきました。しかし、ムスリム女性からすればヒジャブなどをつけられないことは信仰の自由の侵害です。

 

Intersectionalityが重要なのは、女性でもスペクトラムがあり、どの女性について焦点を当てるかでArgumentの方向性が大きく変わることにあります。

じゃあさっきのモーションで考えてみましょう。

THBT the feminist movement should oppose policies that incentivise people to get married

保守的な地域に住む女性は、Feminist Movementが何をしようが、文化的宗教的圧力の結果、どのみち結婚することになります。どのみち結婚するなら育休充実したり、結婚することで資金援助もらえた方が良いじゃないですか。(Oppの話)

逆に、もっと都会であれば、必ずしも全員が結婚するわけではありません。結婚しないという選択肢もあり得ます。だからこそ政府の施策によって結婚する女性が一定数いる。結婚は本質的に抑圧的なものだから結婚する人が減った方がいいという話を立てることができます。(Govの話)

このように、様々な女性に焦点を当てることで様々なArgumentsを思いつくことができます!

 

最後に、#MeToo Movementについても軽く触れます。

#MeToo Movementとは - 2017年、New York Timesがスクープした、映画プロデューサーのHarvey Weinsteinによる性的暴力事件がきっかけとなり、セクハラや性的暴行などの体験を告白・共有する際に、SNSハッシュタグ「#MeToo」を使用して、それまで沈黙してきた問題を「私も被害者である」と発信することで世の中を変えていこうとした運動です。

#MeTooをめぐっては、成功とする評価と失敗とする評価がある。Harvey Weinsteinの逮捕にはつながったし、一時的にものすごい社会的関心を呼ぶことには成功したが、結局構造的改革には繋がらなかったので失敗ではないかという見方もある。More support doesn't necessarily lead to structural change. 色んなディベートで例として使えそうですね。

 

LGBTQ+ Movement

次、LGBTQ+ Movementです。高校生大会や学年大会でかなりequityスレスレのmischaracterisationがされているのを散見します。日本で育った身としては、触れる機会が少なすぎて理解のないままディベートしてしまうことは分かります。だからこそ、一回何かドキュメンタリーでも映画でも何でも良いので、LGBTQ+に関する最低限のイメージを掴むために何か情報を摂取しましょう。

 

まずは最低限の単語・概念の説明から始めます。

Queer (クィア)とは - 性的マイノリティや、既存の性のカテゴリに当てはまらない人々の総称

この単語は元々は「風変わりな」「奇妙な」という意味を持っていました。ここから分かるのは、Queernessとは、「シスジェンダーヘテロセクシュアルではない何か」を表し、画一的な定義づけがされていないということです。だからこそQueerの中でも多様性があり、アイデンティティーも流動的なものとなっています。

大きく分けて、性的嗜好 (sexual orientation)と性自認 (gender identity)の2つあると思ってください。

異性を好きになるsexual orientationがあれば、heterosexual

同性を好きになるsexual orientationがあれば、homosexual (Gay, Lesbian)

そもそも他者に対して性的欲求・恋愛感情を抱かない場合は、asexual

生まれたときに割り当てられた性別と性同一性が一致する場合は、cisgender

生まれたときに割り当てられた性別と性同一性が一致しない場合は、transgender

 

次にLGBTQ+ Movement内でのintersectionalityについて見てみます。

まずは、LGB vs T

これは昔はLGBT MovementからTを外すべきか否かについてのモーションが出てましたが、流石に時代遅れなので、もう見なくなりました。要はLGBの人たちはsexual orientationの問題、Tの人たちはgender identityの問題と全く別問題を抱えていて、残念なことにLGBの中にはLGB Allianceという団体のようにtransphobicな集団がいて、一時期LGBTからTを除外するべきだとの論争が起きていました。なので、Transgenderの人たちはLGBTQ+の中でもマイノリティーといえます。

これがどのように反映されるかというと、同性婚合法化です。多くの国ではLGBTQ+ Movementのメインメッセージは同性婚でした。"Love is love"といったスローガンを

次に、地域による違いです。

宗教色の強い保守派の地域では、未だにLGBTであることは聖書の教えに反し、反宗教的であると見られています。その結果、これらの地域では、カミングアウトをした場合家から追い出されてホームレスになってしまったりするケースはまだあります。一方、リベラルな都会で育った人は、親やコミュニティーの理解を得られる可能性は高いです。

以下のモーションで、リベラルな家庭で育った場合と保守的で宗教信仰の強い家庭で育った場合に分けて考えてみると色々argumentsが思いつくかも!

Coming out of the closet, or simply coming out, refers to LGBTQ people's self-disclosure of their sexual orientation or of their gender identity. THBT the LGBTQ movement should actively portray "coming out" stories in a positive way

 

Black Lives Matter

実は#BlackLivesMatterというハッシュタグは2013年に拡散された。これは前年の黒人少年のTrayvon Martinが射殺された事件を出発点とする。次いで、Michael Brownの射殺事件後ファーガソンで抗議活動や暴動が起こった。そして、2020年George Floydの殺害をきっかけとしてBLMは全米・全世界的なデモ・暴動へと発展しました。

BLMでのeffective mobilisationは人々の怒りによりもたらされました。これは、social movement一般に当てはまるメカニズムとしても使えます。

Anger is a strong and intense emotion. When we realise the injustice that exists to this day, we get angry and we willingly join protests.

「angerを用いて人々の協力を促す vs hopeを用いて人々の協力を促す」 はよくある対立軸です。

例えば、以下のモーション。GovはPride MovementやBallroom (どちらもLGBTQ+ Movement)、OppはBLM、というイメージです。

"Celebratory advocacy" embraces a positive and joyful approach to advocacy, utilizing music, dance, and art to inspire engagement and unity. It emphasizes celebrating achievements, fostering community, and highlighting the movement's successes. On the other hand, "solemn advocacy" takes on a serious and reflective tone, drawing attention to challenges or injustices. It aims to evoke empathy, inspire deep reflection, and mobilize for change through emotional pleas and powerful expressions of dissatisfaction. THBT feminist movements in the developing world should significantly prioritize being celebratory in their advocacy as opposed to being solemn.

一方で、BLMも#MeToo同様に失敗とも言われています。結局のところ警察による暴行 (police brutality)への構造的な解決策は見つからないまま終わってしまったからです。"Defund the Police"(警察予算を打ち切れ), "Abolish the Police"(警察を廃止しろ)というスローガンが掲げられましたが、アメリカ国民の警察への信頼は依然高いままです。「犯罪者と対面するのだから多少警戒するのはしょうがない」「警察は体を張って国民を守ってくれている」と考え、警察を支持する人も一定数います。また、警察内からの変革も難しい状況です。例えば、警官にbodycamの装着を要求することで逮捕時の記録を残したり、被疑者尋問の録画録音を義務付けたとしても、たまたまbodycamが壊れていた・尋問の録画が取れていなかった、としらを切られ、実効性に欠けます。

 

では、ここまで3つの運動について見てきたところで、Social Movements一般によくある争点を紹介します。

Conformist strategy vs Confrontational strategy という争点があります。

日本語にすると「順応的 vs 敵対的」ですかね。

例えば、LGBTQ+ Movementが結婚制度の廃止を主張した場合、これはconfrontational strategy、一方結婚制度を肯定した上で同性婚合法化を主張した場合はconformist strategyとなります。

Conformist strategyの場合、活動の成功の確率は上がります。しかし同時に、ゴールの妥協を強いられます。つまり、effectivenessを優先するか、ideological purityを優先するか、というトレードオフが生まれるのです。

 

Conformist strategy is good

  • Natural tendency not to accept social movements
    • Most people don’t realise that the problem exists because of the experiential gap
  • People don’t want to accept they are privileged and want to think they have worked hard to get to where they are.
    • The kind of people you want to convince are well-meaning or want to think they are well-meaning.
  • Strong status quo biases
    • Changing the societal structure can be threatening.
      • e.g. Rhetoric of ‘Love is love’ by LGBT movements

Conformist strategy is bad

  • Crowd out other goals
    • e.g. Marriage equality -> crowd out concern about violence to women
  • Not change the majority’s worldview
  • Safe space for minority
    • Rather than pandering, should be able to express their identity
    • Overly dependent on fickle allies

よくある対立軸なので、上記みたいにあらかじめこっちのstrategyの方が良い/悪い理由を考えておくと良いと思います。

 

最後に、Social Movementsは、社会的な変革を実現するための道具であるだけでなく、コミュニティーであり一種のsupport strcutureでもあります。例えば、Ballroom (1960年~1970年代のニューヨークのゲイコミュニティ)は、カミングアウトをして家から追い出された少年少女の多くに衣食住を提供し、事実上家族として生活しました。現在でも金銭面精神面でお互いを支え合うマイノリティーのコミュニティーは多く存在します。このコミュニティーの側面にも焦点を当てて、ケースを思いつければ、さらに上達するでしょう。

 

ということで、この記事はここまでです。

読んでくれた方はありがとうございます。

 

復習用音源を貼っておきます。

最初の音源のLOスピーチはすごく良いです。これはSocial Movementsのディベートでのお手本にしたいスピーチです。

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